人生の本当の仕事とは
「人間はまず自分自身を発見し、次に一個人としての自分の義務を、万物と自分との関係を、万物を通して表れている意識や英知との一体性を発見しなければならない」「人生の目的は人に奉仕することである。できるだけ多くの人に奉仕することである。奉仕する相手がふえればふえるほどあなたがた自身についての理解が高まるであろう。実際にはこのことが生まれてきた運命を成就したいと願う人の動機ともなるのである」
西郷という人間の言行を見るといかにこれらのことに当てはまっているかが分かる。僧・月照との入水自殺で西郷だけが生き返ったこと、そして奄美大島に流されたことは自分自身の発見である。再び流された沖永良部島の野ざらし吹きさらしの「囲い牢」では、万物と己との関係を知らされたであろう。また、「敬天愛人」の四字も、天地自然とのかかわりの中で西郷が「万物を通して表れている意識や英知との一体制」として見いだしたのである。
「道は天地自然の物にして人はこれを行うもの」「天は人も我も同一に愛したまうゆえ、我を愛する心をもって人を愛するなり」とする西郷の考えは、まさしく天地自然・宇宙・万物と人間との一体性を表す言葉にほかならない。ソクラテスは「汝自身を知れ」と言い、己自身のなんたるかを知ることこそ人間における命題であるとした。またキリスト教で言う「復活」とはイエス・キリストが生き返ることではなく、自分自身のなんたるかを知ること、すなわち「自分自身を発見
し、自分の使命や義務を見つけること」である。新しい自分に生まれ変わること、それがいわゆる再生・復活することであるともいう。
西郷は尽くすタイプの人間である。そこに見返りを求めない。斉彬に誠心誠意をもって尽くした。日本の国難にも私心なく尽くした。弱い人や困っている人を見ると助けずにはいられなくなる。奄美大島でヤンチュ・ヒザ(奴隷制度)の解放運動に尽力した。悪や不正義に接すると黙っていられない。我(われ)、彼(かれ)の境をなくしたかのように、道に忠実である。西郷には強い思いがある。道を行うことは、人が人であるために行わなければならない根本のことであり、万人に共通なことで、それこそが人生における本当の仕事であると。
二十一世紀の現代、資本主義・貨幣経済・物質文明の中では人間の生きる目的や人の道など希薄なものであるかもしれない。しかし、道を行うことに時代は関係ない。「道を行うには、尊卑貴賤の差別なし。西洋といえども決して別なし。上手下手もなく、出来ざる人もなし」。天地自然と一体になるほどの己を高めよ。人間はもっともっと己を強く大きく高めることに挑戦すべきである。